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ハレとケ

 かつて私達の暮らしにはハレとケの時期があって、このふたつははっきりと区別されていた。「ハレ」とは、お正月やお盆、節句や冠婚葬祭などの非日常な行事が行われる時間や場所を指し、ハレ以外の日常生活が「ケ」だった。
 
 非日常であるハレの日は、単調な生活に変化とケジメをつける日だった。確かに幼い頃、お正月前には「晴れ着」と言って新しい洋服を買ってもらった記憶があるし、ご馳走を食べて、いつもと違う感をあじわっていた。
 一方、ケとは普段の生活そのものを指し、朝起きて働いて夜になったら眠るという日常の状態で、普段着で過ごす時間だった。それが今では混ざってしまって、ハレの日が日常化している。
 私にはオンの日とオフの日という感覚がしっくりくる。それは、化粧をするかしないかで区別されるものである。
 
 メイクをした顔とすっぴんが私のハレとケなのである。ハレの日とは誰か人に会う日のことで、ケの日には基本的に家族以外の人とは顔を合わさない。
 若い頃は化粧をしないほうが自然な気がしていたので、いつもすっぴんだった。出かけるときは口紅だけを塗っていた。当時は化粧をした自分の顔が恥ずかしくてたまらず、人に見せるものではないと思っていた。
 それが歳を重ねると、化粧をしない顔が恥ずかしくなってくる。それで近くのスーパーへ行くだけでもサッと薄化粧をするようになった。
 でもこれがとてもめんどくさいのである。それで、買い物や用事は極力何かのついでに、化粧をしている日に済ませるようにしている。だからよけいにオフの日は外に出ることがないのだった。
 
 古代から昭和初期くらいまで、普通の50代の女性は日常的に化粧をしなかっただろう。ハレの日にはしたかもしれないが、普段は前髪だって下ろさず、結い上げるか後ろにまとめていたと思う。
 みんな潔く自分の顔をさらけ出していた。それで自然だったのだ。
 
 私はときどき素顔で鏡の前に立ち、前髪を上げてみることがある。
 そこに映っているのが自分のほんとうの顔なんだな、と思う。
 顔色は悪く、目の周りは暗く落ち込んでいる。髪だってもし染めなければ全体が白いはずである。化粧をした顔とは全然違う。かなり老け込んでいる。
 
 私は別に化粧がまやかしだとは思わない。
 かつては不特定多数の見知らぬ人に顔を見られることはなかっただろう。
 今はそういう時代である。
 自分の大切なほんとうの顔を守る手段だと考えて納得しているが、でもいつかこう考える時期を通り過ぎたら、私は毛染めと化粧をやめようと決めている。そうしてその時に味わえる解放感をはどんなものだろう、と今から期待している。

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