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好きな道 好きじゃない道

 大阪市内の自宅から大阪府南部にある羽曳野市の実家と畑まで、電動自転車で一時間の道のりを通っている。父が残した畑を耕してくれている叔父(父の弟)を手伝うためである。手伝うといっても農作業はまかせて私はひたすらに草抜きをしている。草抜きに徹しているのだ。
 夏の間は週に一回、涼しくなってからは二週間に一回、土曜日か日曜日に行くことにして、一年半がたった。
 〝しんどいな〟と思うとしんどくなるので思わないようにしている。帰り道に休憩がてら寄る、ちょっとおもしろいスーパーなどもみつけたし、普段の生活にはない〝無になれる時間〟が得られることが、それなりに意味があるような気がしている。
 
 以前はいつも車に乗せてもらって行っていたので、私は自動車の道しか知らなかった。初めて自転車で行ったときは、その道を通ったのだけれど、途中に自転車では通れない場所があった。
 大和川を渡る大きな橋には自転車が走れる側道がある。それを渡って南にまっすぐ行くと、西除(にしよけ)川という小さな川がある。
 この川を渡る道路の脇には階段しかなくて、自転車は通れない。それを見たときは呆然とした。しょうがないので手前で曲がって自転車で渡れる橋を探した。
 しかし、その先で川と道は曲がっているので、再び橋を渡る必要があった。
 そのことに気づいて、西除川を渡らないルートを考えることにした。
 川にぴったり沿った道を進んで、橋は渡らないまま大和高田線という道路に出る。
 この道路は二車線だが道幅が狭く、歩道も細い。
 道の端に自転車はここを通るようにという指示があるけれど、後ろから大型車が来たときなどはとても怖かった。この道路は、近鉄南大阪線の高見ノ里駅から次の河内松原駅を過ぎるあたりまで線路にずっと沿っている。
 踏切を渡らないまま、この道を走るのが一番合理的な行き方だと私は考えていた。無理をしてでも、この道を通るしか方法はないと思っていた。
 しかし先日、高見ノ里の一つ前の、布忍(ぬのせ)駅の踏切を渡る道の前方がとてもゆったりと広がっているのを見て、なんだかすごく気になった。
 いつもは踏切の前で右折していたのである。
 それで空中写真で見てみると、大和高田線と平行している北側の道があったのだった。道幅もまあまあ広そうだった。
 それで次に行ったとき、思い切って踏切を渡ってその道を通ってみた。
 布忍駅の踏切を東へ渡り、まっすぐ進むと左側に松原市立図書館などがある。そのまま進んで右折し、河内松原駅の踏切を渡る。すると大和高田線に出るのだが、ここまで来ると、歩道が広くなっていて多少は走りやすい。
 遠回りにはならない。ただ踏切を二回渡るだけだ。
 
 この、大和高田線と平行した道には、長尾街道という石碑が建っている。調べてみると堺と奈良の葛城市をつなぐ飛鳥時代にできた道だということだった。
 布忍駅の踏切の手前からその道を見たとき、何かに呼ばれているような、あるいは郷愁のような、血が騒ぐような感覚がしたのは、あながち錯覚ではなかったかもしれない。大袈裟に言えば、運命的なものを感じたのだ。
 おそらく私は、古代から続く、人々の暮らしを支える道の、表情や匂いに惹かれたのだろう。
 
 今も私はこの道を通ることを考えるとわくわくする。
 この道を通ることが、楽しみになっているのである。
〝道を通る〟ことの魅力を強く感じている。
 そんなことがあるんだなあと、不思議に思いつつも。

タグ:長尾街道
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