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どうしてかさぶたって

 初めて見る風景から受ける感動。しかもそれは頭をガツンと叩かれたような衝撃を伴っていた。
 スコットランドの首都エジンバラに到着したときの私の率直な気持ちはそんなふうだった。駅から外に出た途端に、誰が見ても凄い歴史を背負っていそうな古い町並みがぐいぐい迫ってきた。城壁に囲まれた荘厳な城は戦いの厳しさを連想させる、今にも中世の騎士が現れそうな気配があった。
 ロンドンから列車で四時間以上かけてたどり着いた街は、他のどの土地にもない空気が流れているようだった。
 ハリーポッターがホグワーツ魔法学校へ出発したキングスクロス駅から列車はグレートブリテン島の東側を走り、海岸線に出る。エジンバラは海が見える街で、カモメが空を飛び、海産物が美味しいところだった。
 私は腰をいたわるため、観光地を巡らずに街にじっくりと浸りながら時間を過ごした。それであの街の雰囲気だけは充分に味わうことが出来たと思う。
 
 エジンバラには三日間滞在し、その後、電車で湖水地方に向かった。
 こちらは四回目なので懐かしさに近い喜びがあった。穏やかで美しい百年前の風景が私を迎えてくれた。
 ロンドンに戻ってからはデパートやスーパーマーケットを回ってひたすら買い物を楽しんで時間を過ごした。その日が何日で何曜日なのかを忘れていた十日間だった。
 
 今回の旅行は二年半ぶりだった。
 半年以上前からたてた計画はスムーズだったが、前後の日本の生活が想定外の忙しさで、私は出発前に腰を痛め、帰国後にはなんと手足口病に罹ってしまった。熱と発疹が出てしばらくは起き上がれなかったのだった。
 こんなことになったのは私だけかと思っていたら、同行した二人の友人もそれぞれ体調を壊していた。同年代なので、旅行疲れからか揃って免疫力が落ちてしまったようだった。
 
 今、私は回復し、やっと旅行の写真を現像しようとしているところである。
 病気のときは自分のパワーレベルが3くらい(10段階で)だな、と感じていたが現在はほぼ10にもどっている。
 手と足と口の中、それと頭皮に発疹が出る前日、今まで経験したことがないようなしんどさに、これはいったい何? と思ったのだけれど、今から考えると熱が上がっていたのだろう。私はもともと平熱が低いし、ここ十数年、熱を出したことがなかったので、熱が高い自分の状態というものがわからなかったのだ。
 
 真っ赤だった発疹は今は乾いてきている。
 そこにできたかさぶたを私はついはがしてしまう。どうしてかさぶたというのははがしたくなるのだろう。特に手の指にできたものは気になる。
 かさぶたをはがしながら、イギリスとスコットランドの楽しかった場面や美しい風景を思い出し、また若い頃とは違う自分の体力の低下に思いを馳せ、複雑な思いのこもった溜息をついているのだった。

タグ:エジンバラ
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