電動自転車を買う

　先週の火曜日、電動アシスト自転車を買った。
　パナソニックの、BiBi、16Ah、白、サドルと前カゴはこげ茶色。
　私の新しい相棒は、スッとしていてデキる女性というイメージである。

　

　私の実家の横に、父の畑がある。
　父が老人ホームに入居する前から、もう10年間以上、父の一番下の弟である叔父さんがこの畑の管理をしてくれていた。
　耕して、自家用の野菜を育て、植木の世話もしてくれていたのだった。私と姉はこの叔父に任せっきりで、ほぼ何もしていなかった。
　叔父さんは畑のすぐ裏に住んでいて、市役所を定年退職後、地元のいくつかの要職を務めている。親戚のなかでも頼りになる人である。
　その叔父が70歳後半になり、畑のすべてを任せるのが困難になってきた。
　全部やめるというのではないが、多少は手伝って欲しいという。

　

　叔父さんに申し訳ないという気持ちはずっとあったけれど、私の実家は大阪南部の農村地帯で交通の便が悪い。
　大阪市内の私の家からは10キロほどの距離で、電車とバスを乗り継いで約1時間かかる。そのバスは1時間に2本しかないし、バス停からも歩かなくてはいけない。一日仕事である。車の免許はもっているけれどもう30年以上運転していないし、だいたい家に車がない。畑仕事はいやではないのだけれど、交通手段がネックになっていた。
　しかし、そんなことは言っておられない状況になったのだった。

　それで、先週の月曜日にとりあえず普通の自転車で行ってみた。
　以前に、実家へは数回、自転車で行ったことがあったのだった。でも考えてみるとそれは10年以上前のことだし、気候のよい時期だった。
　月曜日は早朝に家を出た。行きはまだよかったけれど、2時間ほど畑の草抜きをして疲れた上に正午前の炎天下のなかを帰ってくるのが、本当に大変だったのだ。
　けれど、家から畑仕事用のジャージ姿で行って、そのまま帰って来られるというのはストレスがなく、気分的にはとても楽だった。
　帰ってきてシャワーを浴び、昼ご飯を食べてから昼寝をしたら、目覚めた夕方4時には身体は復活していた。

　

　それで一日かけて熟考し、いろんな人の意見を聞いて、電動自転車の購入を決意したのだった。電動自転車に乗っている人は必ず、
「絶対に、いいですよ」
と勧める。特に男性はその良さを力説する傾向にある。
　火曜日は姉に会う用事があり、姉にも相談した。姉は遠すぎて畑には通えない。父のホームにはよく行ってくれているので、業務分担はしようがない。
　それでその帰りに駅前のお店で電動自転車を買ったのだった。

　　

　

　乗り慣れていない不安はあったけれど、翌水曜日、また早起きして畑へ行ってみた。憧れの早寝早起きも実現できている。
　裏道を研究し、空中写真で経路を確認しておいて、ドキドキしながら辿り着いたけれど、とても快適だった。
　これなら気軽に通える！　と思った。

　

　叔父が畑に出るのは夕方が多いようで、早朝に家を出て、できるだけ昼までに帰りたい私とは顔を合わせないことが多い。家から自転車に乗って、畑についたらひたすら草を抜いて、気が向いたら休憩する。おにぎりを食べることもある。身体が痛くなってきてもう限界、と思ったら、そのまま帰ってくる。
　すべて自分独りの作業、時間である。これが心地いい。
　帰りに通るご陵（古墳）の写真を撮ったり、初めての神社に寄ってみたりする。
　化粧はぐちゃぐちゃだし、汗だくだけど、別に気にしないでいい。

　

　先日は、地元で農業をやっている小学校の同級生が畑を見に来てくれた。同窓会の打合せで、週に一回の畑通いの話をしたからだった。
　彼は軽トラックを持っていて、
「いつでも荷台に自転車を積んで、家まで送ってやるよ」
と言ってくれた。

　さすがに幼なじみというのは頼りになる。

　いざというときは頼る相手ができたのだった。

　この先、畑をどうしていくかは考えないといけないだろうけれど、とりあえずは、なんとかがんばってみようと思っている。

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