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スィーツ・ブッフェ

 スィーツ・ブッフェというのがある。デザートと軽食が楽しめるバイキング、食べ放題のことで、高級ホテルのレストランなどで盛んにおこなわれている。
 季節ごとにテーマが変わり、たとえば早春にはイチゴフェアと称して贅を尽くしたイチゴデザートが好きなだけ食べられる。この〝好きなだけ〟というのが重要なのだ。
 その後、メロン、マンゴー、などとメインのフルーツが変わっていく。不思議の国のアリスなどのテーマに沿った企画もあり、優雅な空間で、ぜいたくな時間を過ごすことができる。美味しい物を好きなだけ食べられるというのは幸せを実感できることだと思う。誰でも笑顔になれる時間である。代金はかなり高額だけれど、コロナ禍以前は予約が取れないほどの人気ぶりだった。
 
 昨年だったか、私は、インスタグラムにさまざまなホテルのスィーツ・ブッフェに行っては写真を投稿しているMさんという女性をみつけた。それでスィーツ好きの友達と一緒に彼女をフォローして、Mさんのレポートを楽しみに読んでいたのだった。
 Mさんはホテルのスィーツ・ブッフェ以外にも、街のケーキショップをよく知っていて、いろいろと紹介していた。自身の写真も投稿していた。ちょっとふっくらとしたショートカットの女性でいつもニコニコと笑っていた。私より少し年上かな、という感じだった。
 
 あるとき、彼女が池田市にあるイギリス風ティールームを紹介していて、紅茶とイギリスをこよなく愛する女性オーナーのとても素敵なお店だと書いてあったので、ちょうどイギリスへ行く前だった私は何か話が聞けたら、と思って、そのお店に興味を持った。
 Mさんのインスタに、「お店に行ってみたいです」とコメントしたら、すぐに返事が来て、丁寧に場所を教えてくれた。
 そして私はそのお店に何度か足を運び、オーナーと親しく話すことができた。
 Mさんはそのティールームの近くで、イギリス帰りの女性がひとりでやっている小さなケーキショップも紹介していた。ここのケーキは絶品、と書かれていて、自分は週末には必ず行って、店内でいただくのだと写真が投稿されていた。
 それがとても美味しそうだったので、私は友達と行ってみることにした。ちょうど土曜日だったので、その日はMさんも行っているということだった。
 そうして私は初めてこの「SNSで知り合った友人」と顔を合わせたのだった。
 
 あれだけ頻繁に高級なスィーツ・ブッフェに行っているのだから、セレブな人かと私は思っていたけれど、Mさんは全くそんな感じではなかった。彼女は仕事をしながらお給料をやりくりし、少しでも安くなる方法を見つけて行っていると言っていた。いつもひとりで出かけていくのだということだった。地に足の着いた、庶民感覚と鋭い観察眼を持った人だった。そしてなにより彼女はスィーツが大好きなのだった。
 一流ホテルやスィーツへの造詣が深く、知識が豊富で、私達は彼女から多くのことを教えてもらった。
 たくさん行ったなかでも、彼女が一番だと認めるのはAホテルのものだという。
 フルーツ・ブッフェでは特に夏に開催される桃のフェアが他の追随を許さないクオリティの高さだそうだ。桃を使ったさまざまなデザートとともに、三種類の桃を食べ比べられるそうで、ひたすら桃の皮を剥いてくれるシェフがいて、ほんとに好きなだけ桃を味わえるということだった。
「あそこよりいいところがあるなら教えて欲しい」
と彼女は言っていた。
 
 コロナ禍で今年は中止という予定だったが、八月末まで開催されてMさんは当然のごとく行って写真を投稿していた。
 私も行きたくてたまらなかったけれど、ギリギリまで考えた末に、結局断念した。ちょうど新型ウィルスの波がひたひたと近くまで忍び寄ってきているのを感じていた時期だった。
 
 Aホテルでは九月からあらたに、「ぶどうと栗のフェア」が始まっている。デザートと一緒に数種類のブドウが〝好きなだけ〟食べられる。もちろんウィルス対策はなされているだろう。
 ぜひ行ってみたいけれど、どうなることだろうか。
 そして来年の夏には、心おきなく三種類の桃の食べ比べができるのだろうか。
 
 今の私はひたすらにその日を夢にみている。

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