ルービックキューブ (2)
ルービックキューブを本棚に置いたまま触れずにいる間に、娘が結婚し、出産した。
その子が成長して5歳になった頃、キューブをさわりたがったので、手渡して、動かし方を教えてやると、とても興味を示して遊ぶようになった。
もちろん、ぐちゃぐちゃにするばかりである。
その子は、乱れたキューブを持ってきて、
「ばあば、もとにもどして」
と、わたしにせがむのだった。
以前はできたけれど、今はできない。とても情けない思いがした。
6面をぴったり揃えられたら、この子はどんなに喜ぶだろう、という気持ちから、わたしは再びキューブに挑戦することにしたのだった。
それで以前のようにYouTubeの映像を見てみたけれど、今度はなかなかうまくできなかった。
かつての少年の映像を見つけることもできなかった。
それで本腰を入れて、メモに頼らずに覚えられる方法がないかと探してみた。
ルービックキューブの揃え方についてはたくさんの種類の投稿があるのだった。
そのなかから、規則的な動作を繰り返すことで完成させられるやり方をみつけて、集中してやってみた。
数学教師のような中年男性が冷静に説明してくれる映像だった。
そうしてじっくりと時間をかけて、わたしはルービックキューブの解き方(の1種類)をマスターしたのだった。
考案者であるハンガリーの建築家エルノー・ルービックの著作も読んだ。
彼はキューブのことを〝わたしの息子〟と呼んでいる。
いろいろとキューブのことを調べてみてたくさんのことを知った。
数年前にわたしが百円ショップで買ったキューブは正式なものではなく、今はもう売られていないこと。
競技用に使われているものは、動くスピードを自分で調整できること。
わたしは今回、正式なルービックキューブを正式な価格で購入した。
このさわり心地は百均の製品とよく似ていた。
ネットで中国製のものも買ってみた。安くはなかった。これはとても動きが滑らかだった。
キューブの世界記録は4秒台で、少しずつ更新されている。
わたしは速さにはあまり興味は感じない。
キューブを動かしている時間が楽しいのだった。
法則に則って動かせば、必ず最後は6面が整う。
ラストの一瞬前までキューブは乱れている。
1個のキューブが正しい位置にあっても全体のためにいったん動かす必要がある。
ほんとに大丈夫なんだろうか、とドキドキしながら動かすのだけれど、やはり最後はすべてのキューブがあるべき位置に収まる。達成感と快感がある。
手のひらの上の物体と向き合いながら、それと協力して〝完全無欠〟へと進んでいく。
それは〝自然にもどる〟というようなとてもナチュラルでしっくりとくる感覚だ。
会話するというまではいかないけれど、キューブに感情を注ぎ込むようにわたしは集中する。
3次元パズルの奥深さを理解しているわけではなく、知的な探求の部分を人任せにしていることはわかっている。自分で解くのとは違う種類の感動なんだと思う。
今度こそ本棚に放置せず、いつも手に取りながら、この感覚を忘れないようにしようと心に決めている。
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