新しいトースター
パンが好きで、なかでも特に食パンを焼いてバターを塗って食べるのが大好きである。
今のトースターは10年以上使っており、昨年から買い換えを考えはじめていた。食パンに焼きムラができるようになっていたからだった。そのトースターは、置き場所のサイズに合わせて買ったものだ。置く予定の場所が狭くて、ピッタリ合うサイズのトースターはお店にひとつしか無かった。他に選択肢がない状態だったことを覚えている。
今回の買い換え後も10年以上は使いたい。そうなると、これが自分がしっかりと選んで買う最後のトースターになるかもしれない、という思いがある。
それで、”食パンが一番美味しく焼ける”という評判のB社のトースターを買いたいと私は私は考えていた。トースターとしてはかなり高価なものだったが、悩んだ末に、やっぱりそれを買おうと決めた。
サイズが大きくて、今の場所には置けない。
それを最後まで悩んでいたが、洗濯機の上の棚を整理して置くことにした。
これは娘からの提案だった。私の家は狭いので台所に洗濯機置き場があるのだった。
その上の棚はタオル置き場になっている。それを移動して新しいトースターの場所を作ることにしたのだった。
私はわくわくしていた。ちょうど電子レンジと炊飯器(どちらも20年近く使用)を買い換えたところだったので電気屋さんのポイントが貯まっていた。
思い切って高価なトースターを買うことを決めた自分にとても気持ちが高揚していたのだった。
ところが、お風呂の換気扇が壊れて交換が必要になった。思えばこれも30年近く使っていて、その間一度も掃除をしたことがなかった。
知り合いの電気工事屋のMさんに交換を頼み、それを待っている間に洗濯機が壊れた。これもMさんに頼んで交換してもらった。
それと同時に、今度はアコーディオンカーテンの金具がはずれた。そういえばこのアコーディオンカーテンもかなり古い。40年以上は使っている。Mさんの知り合いの工務店にお願いしてすべて取り替えることになった。
職人さんに下見に来てもらい、製品を選び、見積もりを取り、日にちを合わせる。すべてにそういう段取りがあり、私はそのひとつずつに対処していった。
周囲の物が新しくなっていくのはうれしいことで、自分も新しくなっていくようだ、と人には言っていたけれど、気力がどんどん消耗していく感覚もあった。
それらがやっと終わって一息ついていたら、食器棚の扉がはずれた。
見ると蝶番がちぎれるように割れていた。これは結婚の時に持ってきたもので、経年劣化によるものに間違いなかった。
私はドライバーで壊れた金具をはずし、それを持って自転車でホームセンターに行き同じ物を買った。製品番号を確認し、念のため店員さんにも確認した。
そして家にもどってそれを自分で取り替えたのだった。
何もかもが壊れていく。そういうシーズンなのだろう。
誰にでもそういう時期があるという。
周りを見回すと、他にも長く使っている物がある。
何かあれば、また対処していくことになるんだろうな、と思う。
そして私はいまだ新しいトースターにはたどりつけないままである。