自転車を買う
自転車を買い替えたいな、と思っていた。
普通自転車のほうである。
私の生活に自転車は必需品で、たいていの用事をそれで済ませてきた。
月に8日ほど、片道30分漕いで事務の仕事にも行っているけれど、実家の畑通いのために電動自転車を買ってからはそれを使っている。
とても楽になったが、運動不足になっていることへの後ろめたさが多少あって、家の近くは普通自転車を使うようにしていた。
赤と黒のツートンカラーで、とても気に入っていた。
近所のスーパーへの買い物や、図書館、ピラティス教室やプールへ通うのにも普通自転車に乗っていた。
電動自転車はバッテリーの取り外しなどの手間があり、サッと乗れる普通自転車と乗り分けをしていたのだった。
大切にしているつもりだったけれど、雨ざらしの場所に置いているせいもあって、気が付けばその普通自転車が全体的に錆びてキイキイという音をたてるようになっていた。自分なりにいろいろ対策を講じてみたけれどなおらず、もう寿命かな、と感じていたのだった。
買い替えを考え始めて夫に相談すると、
「普通自転車はもう必要ないんじゃないか」
という答えが返ってきた。
私は買い替えは当然のことだと思っていたのでびっくりした。
実は我が家にはもう一台、普通自転車がある。
これは娘が二人目の出産のために里帰りをしていたときに、上の子を乗せて移動するために買ったものだ。
前後に子ども用の椅子が取り付けてあり、今でも娘家族が帰ってきたときは重宝している。
姉妹用のヘルメットも買ってある。
夫はこの自転車を使えばいいと言うけれど、荷物を載せるカゴがない。
買い物に行ったときは数日分の食料を前後に載せる必要があるし、洗剤やシャンプーなどの液体類、トイレットペーパーなどの紙類も重くて場所を取る。
夫は子ども用の椅子を外してカゴを付けたらいい、と言う。
娘に確認すると、やっぱりその自転車はもう少しそのまま置いといて欲しいと言う。
私は夫の言葉に気持ちがくじかれてしまった。
しかし彼は普段めったに自転車に乗らないし、家の横側に置いているので目にもしない。深い考えがあっての言葉ではないという感じもした。
どうしようかと迷っているうちに、赤い普通自転車のキイキイ音はどんどん大きくなり、私は近所に行くのにも電動自転車に乗るようになっていった。
スイッチを切ると途端にペダルが重くなる。でも罪悪感があるならそうやって乗るべきかな、という思いも湧いてくる。
買い替えないなら、古い自転車の廃棄の方法も考えなくてはならない。
いろいろと思い悩んでいるとき、ちょうど、自治体のプレミアム商品券というのが発売になることを知った。
1万円で1万3千円分の商品券が買える、というものである。
最高4枚まで買える。そうなると1万2千円分が上乗せされることになる。
早速、調べてみると、駅前の自転車屋さんでその券(ただしアプリのみ)が使えることがわかった。
私は4万円分の商品券を申し込み、コンビニでそれを打ち出してスマホのアプリに取り込んだ。
スーパーのレジで教えてもらって使い方を覚えた。
そしてひとりで古い自転車に乗ってお店に行き、新しい自転車に買い替えたのだった。
事前に下見をして欲しい自転車を見つけていた。
色はカーキで夫が乗るにも違和感がないのにした。前輪と後輪をつなぐ部分が斜めの直線になっていて、そこに白字の英文が書いてあるデザインだった。
黒いワイヤーの洒落た前カゴが付いていたので、後ろにお揃いのカゴを取り付けてもらった。
ハンドルには傘立ても付けてもらい、それに乗って家まで帰った。
商品券の上乗せ分では全額を賄うことはできなかったけれど、1万2千円の値引きをしてもらったことになる。
今、私はとても快適に自転車の乗り分け生活をしている。
新しい自転車はとても気持ちがいい。何の心配もなく乗ることができる。
ただひとつ、不思議なことがある。
この自転車を買ってから、同じ自転車をよく街で見かけるのだ。
盗難にあったのでは、とハッとするけれど、よく見ると、後ろのカゴがなかったり、傘立てが付いていなかったりする。
まったく同じのもあるし、とてもよく似たのもある。
とにかくよく目にとまる。
なぜだろう、と思っているうちに、つまりそれが今流行りの型の自転車だということに気がついた。
1台の自転車は10年ほどは乗るものと考えている。
だから買い替えは私にとっては大きなイベントだ。
でもこんなによく見かけるのは、たくさんの人が同時期に自転車を買ったといういうことだ。
街の自転車屋さんが成り立っているのはそういうわけなのである。
いろんな事情があるにしても、世の中の人はみんな新しい自転車を買うものなんだなー、と感心しているのだった。
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