SSブログ
2024年04月04日| 2024年05月05日 |- ブログトップ

なくしもの

 今月の半ばを過ぎた頃から、イギリス湖水地方への旅に出立する予定である。
 このために半年以上前から仕事の調整や準備を続けてきたのだけれど、それが間近に迫ってきて、なんとなく自分の気持ちがうわずっているように感じていた。
 出発までに済ましておかなければならないことを順番にこなしながら、どこか自分自身に詰めの甘い部分があったように思う。
 それでミスというのか、失敗というのか、大変ななくし物をしてしまったのだった。
 
 一昨日のこと、私は朝から実家の畑の草抜きに行った。夫がレンタカーを借りてくれて、早起きして二人で出かけたのだった。気持ちの良い天気だった。暖かくなったせいか、草はいつもより伸びていた。それをひたすら抜いて、昼前には畑はかなりスッキリとした。
 父の弟である叔父とも顔を合わせ、エンドウ豆をもらって、いろんな話をした。
 そのあと、両親のお墓にお参りをした。ここにも草が生えていたので、それを抜いてお墓をきれいにした。
 そして線香をあげて旅の安全をお願いした。
 
 それから夫とラーメンを食べて、堺にある方違(ほうちがい)神社に行った。古いお札とお守りを返し、ここでも旅の安全をお祈りし、海外旅行用のお守りを夫婦で買った。
 そうして最後に家の近くのスーパーに寄ったのだった。
 それがその日、私がたてていたスケジュールのすべてだった。
 私は貴重品を入れたバッグを肩から斜め掛けにして、小ぶりのエコバッグを手に持っていた。
 絵本の“エルマーと竜” に描かれているようなドラゴンが刺繍されたお気に入りのバッグだった。
 中には化粧ポーチと、ポイントカードをまとめて入れているポーチ、それと方違神社で買ったお守りふたつが入っていた。
 この店では晩御飯の材料以外に旅行に持っていくためのカップ麺やお菓子などを買ったので、量が多くなり、予備のエコバックふたつに分けて入れた。
 帰宅すると、玄関前に生協で頼んでいた商品が積んであった。
 車から降ろした畑作業用の荷物と買い物をしたバッグを家の中に運び、それから生協の商品を入れ、我が家の玄関はあふれかえるようになっていた。
 夫が車を返しに行っている間に、私はそれらの荷物を台所に運んで整理したのだった。
 
 すべての予定を滞りなく終えて、その日は満足して眠りについたのだったが、翌朝になって、私がずっと手に持っていたドラゴンのバッグが見当たらないことに気が付いた。
 前日に行ったスーパーに電話をかけて、落し物が届いていないか尋ねてみると、
「バッグはないですね」
という返事だった。
 それなら車の中に忘れたのかな、と調べてみると、レンタカーはその日の夕方6時半まで使用中になっていた。もし忘れ物をした場合は、自分でその車の次の予約をしてカギを開けて確認するという規則だそうで、一応、忘れ物があれば車中に置いておいてください、という張り紙を駐車場にしておいて、夕方になるのを待った。
 けれど帰って来たその車の中には私のバッグはなかった。
 
 私の気持ちはどんよりと落ち込んでいたけれど、その時に最悪の瞬間を迎えた。
 ぼんやりとしていて、なくしたことに気がつかなかった。生まれ育った地域の言葉でいうところの“ぼっさり”の状態になっていた。なんて情けないことだろう。
 ポイントカードの入ったポーチにはさまざまな会員証なども入っていて、それらを再発行してもらう手続きを思うと気が重かった。手芸店の一年間有効の割引ハガキも入っていたはずで、そこには住所や名前が明記されている。それ以外にも個人情報を悪用される可能性の高い物が多くあった。方違神社のお守りはもう一度買いに行かないといけないだろう。しかも次は自転車で行くしかない。
 悔やんでも悔やみきれない。もっとしっかりしなければ。
 しかし、お金に関係するカードはない。それだけはよかった。財布を落とすよりはマシと考えるしかなかった。
 そのとき、夫が、
「もう一度、スーパーに電話してみたらどうか」
と言った。
 私は、2度も電話をする気にならなかったが、夫がかけてくれたところ、前日出勤していた店員さんが、私が忘れたらしいバッグを近くの交番に届けてくれていたということがわかったのだった。
 朝の電話に出た人はそれを知らなかったようなのだ。
 その後は警察に連絡して、交番に行って書類を提出するなどのいくつかのやり取りがあり、最終的には、夜に、夫がレンタカーで本署まで乗せていってくれて、私は無事に、ドラゴンのバッグを手にしたのである。
 化粧ポーチの中身もポイントカードの種類も、預かり書類には細かく記述されていた。
 ピーターラビットの手鏡については“うさぎの絵入り”と書いてあった。
 届けてくださった方には感謝しかない。
 
 思えば私は今までいくつかのなくし物をしてきた。
 そしてそれらを取り戻すことができてきた。
 ここ一年のうちでも、サンバイザーや手袋の片ほうをそれぞれ違うスーパーで落とした。
 気が付いて電話をすると、どちらもサービスカウンターに届いていて、受け取ることができた。
 けれど今回のバッグはそれらと比べ極めて重要性が高い。
 戻ってきたことは奇跡に近い気がする。
 これは神様のおかげではなく、誠実な対応をしてくださった、ごく普通の日常を生きる“人”のおかげである。
 
 本当に、本当に、ありがとうございました。

nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:日記・雑感
2024年04月04日| 2024年05月05日 |- ブログトップ