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自力でなんとか

 子どものときから他力本願で生きてきた。日常のささやかな諸々のことについてである。お裁縫などは得意なので靴下が破れたりセーターの糸がほどけたのを直すことなどは自分でできる。家族の分もやっている。けれど蛍光灯を交換したり、テレビの配線を整えたり、というようなことは、子供時代は父親に、結婚後は夫にしてもらうものだと思ってずっとやってもらってきたのだった。

 しかし夫が単身赴任をしてしまうとそういうわけにはいかない。天井に接するように付いている電燈は脚立に乗って取り換えるし、壁時計の電池も自分で交換する。緩んだネジはドライバーでなおし、本棚の補強もホームセンターで金具を買ってきて自分でやった。やってみるとできるものだなぁ、と感心する。子どもならこの感覚の積み重ねが成長につながると尊ばれることだろう。

 ここ数年は年賀状を自宅のパソコンで作っている。デザイン集を買ってきて、これとこれ、などと候補を選び、以前は夫に作ってもらっていた。嫌がらずにやってくれるのだけれど、この色をほんの少し茶色がかった感じに、とか、文字をあと数ミリ下にずらして、などという細かい希望は口に出すのをはばかれる雰囲気があり、そこそこの状態で妥協しなければなかなかった。帰宅日を待つのも面倒である。
 それで近頃は全部自分でやっている。本には丁寧な説明が付いているので、その通りにやればいいのである。これでとことんこだわった年賀状を作ることができるようになった。

 先月、私はスマートフォンの機種変更をおこなった。使い始めてちょうど二年目だったので画面の大きなものに変えたのである。この際にデータの移行を自分でしなければならなかった。ネットで方法を検索し、何度もシミュレーションをした。パスワードや暗証番号を確認し、失敗があったときのための対策までかなり念入りに準備をして臨んだのである。
 これはやはりちょっとしたミスがあったが、再チャレンジでなんとかうまくいった。
 やればできるもんだなぁ、とまたもや思った。
 しかし写真入りの丁寧な説明を読んで理解することが、今の自分なら可能だけれど、この先コンピューターはどんどん進化し、自分の理解力は衰えていく。いつまでがんばれるのかという不安もつきまとう。

 その後、ずっと調子がよくなかった家のパソコンがいよいよだめになり、これはさすがに自力ではどうにもならず知り合いの専門家に来てもらった。修理に時間がかかり、ご飯どきになったので私は彼に皿うどんを作った。一人暮らしの彼はそれをもりもり食べた。それからお茶を飲みながら近所のスーパーの長所短所などオバサン風の会話をしたりしていたが、ふと思い出して、
「このスマートフォンで家のパソコンに届くメールを受信できるかな」
と聞いてみると、
「たぶんできますよ」
と彼は私のスマホを手に取って素早く操作を始めた。
「…やってくれるの?」
 あっけにとられて私は尋ねた。実はやり方をすでに調べていて、なんとかできるだろうけどかなり大変、ということだけは知っていたのだった。それで時間のあるときにゆっくり自分で試みるつもりだったのだ。

 彼もネットで方法を調べながら、私より数十倍速くあっさりと希望を叶えてくれた。パソコンを開くのが一日に一回もないことがあり、メールへの対応が遅れ気味になっていたのでとても便利になった。

 人にやってもらうというのが久しぶりで、私は少し感動した。
 うれしいおまけをもらったような感じ、というところだろうか。


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