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日常にもどる

 旅に出る前はあらゆることを心配する。けれどいったん出発してしまえば、非日常だった世界が自分の日常となり、多少の融通がきく弾力性のあるものになるのである。
 そうして特にトラブルもなく帰国することができたけれど、今はまだ日常と非日常のハザマをさまよっているような気分である。

 私はいまだに飛行機がなぜ空を飛ぶのかよくわからない。学ぼうとしたことも教えられたこともなくただ事実として受け入れているだけなのである。それでもその理屈がわからない乗り物に身を委ねて、私は帰ってきた。本当に有り難いことだと思う。

 15時間以上も雲の上を飛ばなければ行けない場所で、異なる人種の人々がそれぞれの居場所を持ちながら暮らしていた。私の行きたい場所はそういうところにあるのだった。夜遅くに着いたロンドンで一泊し、翌朝早くに鉄道でスコットランド近くの湖水地方へ移動した。この時、ネットで予約していたチケットは何の問題もなくスムーズに受け取ることができた。
 そして昼前にはウィンダミア駅に到着した。その日はそこで泊まり、翌朝、ウィンダミア湖を船で横断してバスに乗り継ぎ、私が世界中で一番行きたい場所であるニアソーリー村ヒルトップに着いたのだった。この行程は二度目だったので私は同じ風景を確認するような巡礼者の気持ちだったが、あとの2人は初めてなので、かなり感動しているようだった。そしてピーターラビットの本が書かれたヒルトップの2軒隣にあるバックル・イートに二日間滞在した。本に描かれているこの建物に泊まることが、この旅の一番の目的だった。
 そこを拠点に周囲の美しい風景の中を歩き、町を巡った。天気はずっと快晴だった。アーミット・ライブラリーにも迷わずに行けて、私はビアトリクス・ポターのきのこの絵を再び目にすることができたのだった。

 女友達3人の旅は愉快で新鮮だった。私のせいで2人をかなりのビアトリクス・ポター・マニアにしてしまったけれど、ロンドンの生家跡まで喜んでつき合ってくれた彼女らには心から感謝している。
 おみやげ(高価なものではない)を買いこみ過ぎて、湖水地方からロンドンに戻った時点でトランクの重さが21キロ(航空会社の制限重量は20キロ)になっていたNさんはどよーんと落ち込んでいたが、最後には機内持ち込み荷物とうまく配分して辻褄を合わせていたのには感心した。彼女は家族にはこんなに買ったことを内緒にする、と言っていたけれど、帰ってみると娘さん達やお母さんまで加わっておみやげの争奪戦になり、ダンナさんから、
「もっと買ってきたらよかったのに」
と言われたそうである。

 なんて優しい言葉だろうか。
 その言葉に女3人旅を肯定してもらった気がするのだった。

 広い地球上のたった一点である自分の家に私は帰りつき、そして前と変わらぬ日常がはじまった。しばらく仕事に追われていたが、今日はやっと家じゅうの掃除をすることができた。スーツケースを押し入れになおして布団をベランダに干した。
 旅行のことを知っている人は「おかえりなさい」と言ってくれる。知らない人はずっとここにこうしていたように思っているだろう。

 でも思い切って行ってやっぱりよかった。


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夢想回遊子

最後の言葉に尽きますね、やっぱり 思い切って 行ってよかったんだと。
日常にもどるまで、もったいないから、もうしばらく 余韻にひたりあれ!
by 夢想回遊子 (2016-10-04 14:49) 

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