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雨上がりを待って

 図書館で本を五冊借りていた。
 今、若い世代に人気がある作家の小説集というので興味を抱いて、きちんと五冊とも貸し出し期限までに読み終えた。これは私には稀なことだった。
 そしてちょうど返しに行くときに借りられるようにまたネットで本を予約した。こちらは執筆中の原稿の資料にするものだった。予約の本が揃うとメールで連絡が来る。うまい具合に五冊の返却期限内に連絡が来た。
 
 すぐに図書館に行きたい、と私は思った。読み終えた本を返して、次の新しい本が読みたかった。手帳を開いて、行ける日を考える。
 図書館までは自転車で15分ほどの距離である。歩くと30分。それ以外の交通手段はない。
 行く日を決めて、せっかく出かけるのだから、返りに薬局やスーパーマーケットに寄ろうと考える。買い物メモを作る。図書館の近くには大きな電気屋さんがある。新しい掃除機を見に行くのもいいな、と胸をわくわくさせていた。
 
 しかし…。
 その日から雨が降り出した。数日間降りやまないという予報も出ていた。
 しかもかなり強い雨である。
 
 窓の外を眺めながら、「あーあ」と溜息をつく。
 夏なら多少濡れても自転車を漕いで行こうと思うかもしれない。けれど冬の雨は冷たくて、濡れたら風邪をひくかもしれない。手袋をしていても絶対に手は濡れる。あのじっとりした感覚が蘇る。
 期限にはまだ日があった。それで雨があがるまで待つことにした。
 
 行かない、と決めると身心から緊張感が抜けて、家の中でダラッとしてしまう。化粧もしない。家着用の毛玉のついたセーターを着て一日を過ごすことになる。これを数日繰り返して、雨上がりを待った。
 
 待ちながら、それが待てる自分に少し驚いた。
 以前の私なら無理だっただろう。おそらく土砂降りの中、レインコートに傘をさして図書館まで自転車を漕いで行ったと思う。せっかちで、用事はできるだけ早く済ませたくてならなかった。予約している本を読みたい気持ちも抑えられなかったはずだ。そして思い切って行ったあとで、ある種の達成感を手に入れたに違いない。
 うだうだ待たずに素早く行動して気持ちをスッとさせる。
 それには強い意志も必要だろう。雨の中、自転車を漕ぎながら前方を睨みつけるようにみつめる自分の目が思い浮かんだ。
 
 どちらがいいのかということは、自分の納得度で決めるしかない。
 
 雨がやんでやっと晴れた日、朝から仕事だったので帰りに自転車で図書館へ行った。期限はぎりぎり間に合った。
 夕方であまり時間はなかったけれど、せっかくなので館内の書架を眺めてまわり、「顔面採集帳」チチ松村 というような気分転換に読めそうな本を数冊借りて帰った。

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